エアロゲルとは

aerogel

要点

  • 低密度の乾燥ゲル(構造体)の総称。特定の化合物ではない。
  • 収縮・崩壊しやすいため通常の乾燥法では作製できない。
  • 超臨界乾燥装置さえあれば作るのは簡単。
  • 見方によっては優れた物性値をもつが脆くてすぐ崩れる。
  • 80年以上前に発明された古い材料。「新素材」は誤り。

エアロゲルについて

エアロゲル(aerogel)はIUPAC GOLD BOOKにおいて”Gel comprised of a microporous solid in which the dispersed phase is a gas.”と定義されています。一般的には超臨界乾燥法を用いて得られた低密度構造体(乾燥ゲル)のことです。エアロゲルに対し、蒸発乾燥過程によるものをキセロゲル、凍結乾燥のものをクライオゲルと呼びます。構造体の名称であり、特定の化合物を指す用語ではありません。

シリカ(SiO2)、有機ポリマーやその焼結体であるカーボン(C)、アルミナ(Al2O3)やチタニア(TiO2)をはじめとした金属酸化物などさまざまな物質で作製され、断熱材、電極、触媒担体などへの応用研究が古くから行われています。

何十年も前から知られている材料であり、超臨界乾燥装置されあれば作製は難しくありません。身の回りで目にすることはほとんどありませんが、シリカエアロゲルは海外サイトで簡単に入手可能です。

シリカを中心としたエアロゲルの歴史

1931年

今から80年以上前の1931年、S. S. Kisterにより最初に作製されました。[1] 「ゲル骨格を保ったまま内部の液体を気体に置き換えられるか」という学問的な課題から生まれた構造体です。最初の報告にはかさ密度0.02–0.1 mg cm−3のシリカ、アルミナ、酒石酸ニッケル、酸化スズ、酸化タングステン、ゼラチン、アガー、ニトロセルロース、セルロース、アルブミンなどの組成が登場しています。

1960–80年代前後

酸素およびロケット推進剤貯蔵するための多孔質材料の研究から、1962年にアルコキシドを前駆体に用いたシリカ作製法が誕生しました。それまでのケイ酸塩を用いた作製法よりも反応制御が容易であるため、今日でもシリカエアロゲル作製法の主流となってます。
その後、高エネルギー物理学実験用のチェレンコフ光検出器にシリカエアロゲルが採用され、屈折率を変化させるためにかさ密度0.025–0.500 g cm−3を制御した透明エアロゲルの作製が可能となりました。また、断熱窓としての生産も始まりました。スウェーデン企業が60×60 cm2パネルを作製していましたが、1984年にガスケット破れによるメタノール漏れを原因とする工場爆発・全壊事故が起こっています。BASFなどから粒状シリカエアロゲルの製造・販売が始まりました。

1990年代前後

疎水化シリカエアロゲルが登場し、湿気や水を含む環境中でも安定なエアロゲルが作製されるようになりました。今日工業生産されているシリカエアロゲルの多くは疎水化されています。また、作製が容易なレソルシノール―ホルムアルデヒド(RF)エアロゲルが発明され、ポリマーエアロゲルや焼結体のカーボンエアロゲルの研究が盛んになり始めました。

2000年代以降

シリカエアロゲルを化学修飾で強化したNASAのX-AerogelやAspen Aerogels社によるエアロゲルブランケットなどが登場し、比較的扱いやすいシリカエアロゲル複合材料が市販されるようになりました。シリカ組成は研究し尽くされてきたため、エアロゲル研究はシリコーンやシルセスキオキサン、有機ポリマーなどの組成に軸足が移っています。また、グラフェンやカーボンナノチューブなど炭素材料を骨格にもつエアロゲルが、電池電極材料など電気化学材料研究で目立ってきています。

シリカエアロゲルの特徴と現状

透き通った見た目で有名なシリカエアロゲルは、超低比重・透明(10 mm厚で約90 %)・低熱伝導率(<15 mW m−1 K−1)を特徴とする構造体として知られ、優れた物性を利用した用途が検討されてきています。[2,3] しかし作製プロセスに高圧条件を必要とするため大きなサイズを得ることが難しく、脆性により取扱いも難しいため、身の回りで目にする機会はほとんどありません。

エネルギー問題が叫ばれる近年は優れた断熱性に注目が集まっているため、繊維と複合化して扱いやすくしたエアロゲル製品も市場出回っていますが、導入コストが高いためあまり普及していません。広く売り出すためにはまだまだ解決すべき欠点が多いのが現状です。

エアロゲルの組成として一番よく知られているシリカは研究し尽くされており、もう20年ほど目立った成果がありません。複合化やシリカ以外の組成に研究の軸足が移っています。

シリカエアロゲルの断熱性

シリカエアロゲルで最も注目されている特徴は可視光透過性と高い断熱性です。市販の高性能断熱材の熱伝導率が主に20–40 mW m−1 K−1であるのに対し、シリカエアロゲルの熱伝導率は簡単に15 mW m−1 K−1を下回ることが知られています。

熱伝導は気相・固相・輻射によって起こります。エアロゲル断熱材の最大の特徴は気相(内部の空気)の熱伝導率の低さにあります。エアロゲル内部は90 %以上が空気で満たされており、それぞれが数十nmの細孔(空間)に仕切られています。空気中の分子の平均自由行程はおよそ70 nmですから、細孔内では空気の対流が生じず分子同士の衝突(熱交換)も起こりません。したがって脱気せずとも真空並の熱伝導率に抑えることができます。また、空間体積に対して希薄な骨格も固相の熱伝導率抑制に寄与します。

細孔径と骨格(かさ密度)は、エアロゲルではトレードオフの関係にあります。骨格を増やせば細孔径が減って気相の熱伝導率を抑制する分、固相の熱伝導率は増加してしまいます。逆もまた然りです。エアロゲルで高い断熱性を実現するためには、かさ密度の最適値(~0.15 g cm−3)を実現する必要があります。

シリカエアロゲルの可視光透過性

エアロゲルに限らず、透明素材として材料を用いるためには、厚みに対して70 %以上の可視光透過率が必要といわれています。

適切な組成で作製されたシリカエアロゲルは、10 mm厚でおよそ90 %の可視光を透過します。これはシリカの骨格・細孔径の単位スケールが可視光の波長380–780 nmより十分に小さく、ミー散乱を起こしにくいためです。微細構造がよく制御されたエアロゲルは、レイリー散乱のため青く透き通った外観をもちます。可視光の透過性は材料の厚みが増すごとに指数関数的に減少するため、シリカエアロゲルを透明断熱材として用いるためにはより精密な微細構造の形成が求められます。

商用化へのハードル

シリカエアロゲルは数十年前から市販されているものの、あまり普及していません。これまでの主な用途は、低い熱伝導性を利用した断熱材や低屈折率・高透過性を利用した光学部品です。同じ能力をもつ従来の材料に比べて大幅な軽量化が見込めるのが特徴ですが、衝撃が加わらない、単体のサイズが小さいなど、条件が限られています。

シリカをはじめとしたエアロゲルは何十年も研究されてきており、大手メーカーも応用を試みてきた経緯があります。文献では肯定的な内容ばかりがクローズアップされるため優れた物性や利点が目立ちますが、脆性や高圧プロセス、初期導入コストなど欠点の方がまだ大きいのが現状です。短期投資で改善が見込める楽観的な材料ではありません。

参考

  1. S. S. Kistler, “Coherent Expanded Aerogels and Jellies”, Nature, 127, 741 (1931). doi:10.1038/127741a0
  2. Nicola Hüsing and Ulrich Schubert, “Aerogels — Airy Materials: Chemistry, Structure, and Properties”, Angew. Chem. Int. Ed., 37, 22–45 (1998). doi:10.1002/(SICI)1521-3773(19980202)37:1/2<22::AID-ANIE22>3.0.CO;2-I
  3. Lawrence W. Hrubesh, “Aerogel applications”, Journal of Non-Crystalline Solids, 225, 335–342 (1998). doi:10.1016/S0022-3093(98)00135-5