エアロゲルの作製

エアロゲルと超臨界乾燥プロセス

「エアロゲル」は、ゾル-ゲル法で湿潤ゲルを作製した後、超臨界乾燥を経て得られまる構造体です。

湿潤ゲルを乾燥する際、細孔内部には表面張力による毛管力が働きます。コップの壁に水面が貼り付くメニスカスと同様の力です。コップならば壁1周にはたらく小さな力ですが、無数の細孔をもつ構造体中では、生じた気液界面(液面)全ての場所で同様の力がはたらきます。この力はゲルの骨格強度に対してあまりに大きいため、通常の乾燥法ではゲルが容易に収縮し・崩壊してしまいます。豆腐が乾燥収縮したり、干ばつ時に地面がひび割れる現象と同様の原理です。

超臨界乾燥とは、超臨界流体を用いて物質中の水や有機溶媒などの液体を気体に置換(乾燥)する方法です。

超臨界流体とは、気体や液体に高い温度と圧力をかけて両方の性質をもたせた、気体でも液体でもない流体です。今日最もよく利用されている二酸化炭素は、31.1 °C・7.4 MPa以上で超臨界状態になります。水や有機液体など一般的な液体と違い、超臨界流体には表面張力がほとんどありません。

ゲル内部の液体を超臨界流体に置き換え、圧力・温度を下げて気体状態に戻すことにより、ゲル骨格に少しの力もかけることなく分散媒を液体から気体に置換する(乾燥する)ことができます。超臨界乾燥では、ゲルの外観や微細構造が保たれます。熱伝導率や可視光透過率などの物性は細孔の大きさや形状が鍵となるため、超臨界乾燥を用いれば(数値上)高性能な材料を簡単に得ることができます。

凍結乾燥(フリーズドライ)も、凝固・昇華というプロセスを経ることで表面張力の影響を避け、湿潤ゲルを低密度のまま乾燥できる技術です。しかし、凍結乾燥法を経て得られる「クライオゲル」の微細構造は、分散媒の液体を凝固させる際に起こる結晶化の影響を受け、乱れたものになります。一般的に、得られたゲルの細孔は不均一に広がるため、超臨界乾燥で得られたゲルと同等の低熱伝導率や可視光透過性を得ることは難しいといえます。

超臨界乾燥法はほとんどどんな湿潤ゲルでも形状を保ったまま乾燥体にできる、便利な方法です。超臨界流体は工業的に利用されており、珍しい技術ではありません。コストが下がり続ければ、エアロゲルを安く作製できる日がくるかもしれません。

シリアエアロゲルの一般的な作製プロセス

シリカ(SiO2)エアロゲルは80年以上前から作られており、超臨界乾燥に用いる装置さえあれば作製可能です。1931年においても0.02 g cm−3というかさ密度が報告されており、低密度のものであっても簡単に作ることができます。超臨界乾燥装置の仕組みも比較的単純です。法令さえクリアすれば難しい技術や知識は必要ありません。さまざまな作製方法がありますが、以下に簡単な方法のひとつを示します。

  1. 5 mM硝酸水溶液10 mLにテトラメチルオルソシリケート(TMOS)5 mLを加え、10分間攪拌する。
  2. 反応液(ゾル)を60 °Cで4日間静置する。(数時間後にゲル化して固まるが、完全に反応が進行するには時間がかかる。)
  3. 得られた湿潤ゲルを適切な溶媒に浸け、ゲル中の水溶液・未反応物を完全に除去する。
  4. 炭酸ガスをフローして超臨界乾燥を行う。

この方法では密度~0.15 g cm−3の高断熱性・透明エアロゲルが簡単に得られます。溶媒量や触媒(上の場合は硝酸が酸触媒としてはたらく)の工夫により、密度や透過率を変化させることが可能です。

疎水化シリカエアロゲル

上記の方法で得られたシリカエアロゲルは吸湿性をもつため、空気中で徐々に変質していく可能性があります。通常環境中で安定な物質として扱うためには、親水性をもつシラノール基(Si–OH)を減らす疎水化処理が必要です。[1,2] 超臨界乾燥を行う前に、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリメチルクロロシラン(TMCS)、各種シランカップリング剤などを有機溶媒に加えた反応液にゲルを浸漬することで処理されます。考え方は有機物のトリメチルシリル化と同じです。バルク表面のみならば、乾燥後のサンプルをアルコールやシランカップリング剤の蒸気に曝すことでも疎水化が可能です(CVD)。一般的に出回っているシリカエアロゲルのほとんどは疎水化処理が施されているため、純粋なシリカ組成ではありません。

しかし疎水化処理を行っても、水蒸気の吸着を完全に防ぐことはできません。疎水化処理に用いる試薬はかさ高く、骨格の表面でしか反応しないからです。水分子は非常に小さいため、シロキサンが残っている骨格内部まで浸透すると考えられます。

参考

  1. K. H. Lee, S. Y. Kim and K. P. Yoo, “Low-density, hydrophobic aerogels”, Journal of Non-Crystalline Solids, 186, 18–22 (1995). doi:10.1016/0022-3093(95)00066-6
  2. H. Yokogawa and M. Yokoyama, “Hydrophobic silica aerogels”, Journal of Non-Crystalline Solids, 186, 23–29 (1995). doi:10.1016/0022-3093(95)00086-0