ベーマイトナノファイバー(AlOOH組成、BNF)を分散させた酢酸水溶液にメチルトリメトキシシラン(MTMS)など3官能ケイ素アルコキシドを加えるだけで、シルセスキオキサン組成のモノリス型多孔体を形成できることがわかりました。[1]
これまでモノリス型多孔体の作製には、界面活性剤やポリマーなど添加剤を用いて相分離を制御する方法が多くとられていました。これら添加剤はゲル化後に不要となるため洗浄・除去する必要があり、大きなモノリスになればなるほど手間を要するプロセスになります。BNF-ポリメチルシルセスキオキサン(PMSQ)ゲル形成過程においては、BNF表面をPMSQが被覆すると同時に骨格同士が接着し、BNFを内包したシルセスキオキサン骨格をもつ多孔体ができます。この過程には分散剤や相分離誘起剤などの添加が不要です。2液を混ぜるだけの1段階で反応が終了します。通常、PMSQ組成をもつ多孔体を作製するためには酸・塩基2段階反応が必要でしたが、この方法では酸触媒のみで構造が形成されます。
BNFエアロゲルの光学特性からわかる通り、BNFはゲル化時まで高い液中分散性を保つと考えられます。電子顕微鏡観察を行なう限り、コアシェル型ゲルも骨格が空間内によく分散した構造をもっています。コアとなるBNFの量を増やすことによって骨格の割合を増やせば細孔径が小さく、シェルとなるPMSQの量を増やすことによって骨格径を太くするなど、微細構造制御が可能です。MTMS以外のケイ素アルコキシドを出発組成に用いることで、PMSQ以外のシルセスキオキサンをシェルにすることも可能です。このゲルは一軸圧縮に対して柔軟性をもつため、構造を保ったまま蒸発乾燥させることができます。
応用として、まず断熱用途が考えられます。熱伝導率測定を行ったところ、大気圧で30 mW m−1 K−1の値となりました。市販の高性能断熱材に比べて特段よいものではありませんが、耐候性では大きな利点があります。低真空中では約12 mW m−1 K−1に下がることから、簡易な真空断熱材や軽量を生かした特殊用途に可能性があります。
BNF–PMSQゲルは市販のBNF分散液とMTMSを混ぜ合わせるだけで作製可能で、再現性が高い材料です。ナノファイバー自身を構造制御に用いた多孔体作製法はほとんど報告されておらず、異なるナノファイバーとポリマーの組み合わせが見つかれば可能性はさらに広がります。同様の構造体は(イットリア安定化)ジルコニアのナノコロイド分散液を用いても作製可能です。[2]
加工性
BNF–PMSQゲルは同かさ密度の多孔体に比べて機械強度が高く、加工性が高い材料です。CNC切削加工により数百μmの微細形状形成が可能で、表面は高い撥水性を示します。この性質を利用して、例えばスフェロイド形成基板などの応用化を目指しています。[3-4]
一軸圧縮加工により熱伝導率が抑制できることも示唆されました。[5]
論文
- Hayase, G; Nonomura, K.; Kanamori, K.; Maeno, A.; Kaji, H.;
Nakanishi, K. Boehmite Nanofiber–Polymethylsilsesquioxane Core–Shell Porous Monoliths for a Thermal Insulator under Low Vacuum Conditions. Chem. Mater. 2016, 28, 3237–3240.doi :10.1021/acs.chemmater.6b01010 (ポストプリント・ACS Articles on Request) - Hayase, G. Pseudoboehmite nanorod–
polymethylsilsesquioxane monoliths formed by colloidal gelation. J. Asian Ceram. Soc. 2019, 7, 469–475.
doi:10.1080/21870764.2019.1665766 (Open Access) - Hayase, G.; Yoshino, D. CNC-Milled Superhydrophobic Macroporous Monoliths for 3D Cell Culture. ACS Appl. Bio Mater. 2020, 3, 4747–4750.
doi:10.1021/acsabm.0c00719 (ポストプリント・ACS Articles on Request) - Iijima, Y.; Uenaka, N.; Morimoto, M.; Sato, D.; Hirose, S.; Sakitani, N.; Shinohara, M.; Funamoto, K.; Hayase, G.; Yoshino, D. Biological characterization of breast cancer spheroid formed by fast fabrication method. In vitro models 2024, 3, 19–32.
doi:10.1007/s44164-024-00066-3 (プレプリント・ReadCube) - Hayase, G. Boehmite Nanofiber–Polymethylsilsesquioxane Composite Aerogels: Synthesis, Analysis, and Thermal Conductivity Control via Compression Processing. Bull. Chem. Soc. Jpn. 2021, 94, 70–75. doi:10.1246/bcsj.20200205 (ポストプリント)
プレスリリース
- ナノファイバーを被覆・接着し、モノリス型多孔体を作製することに成功 | プレスリリース | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-
- 〔2020年8月3日リリース〕巨大ながんスフェロイドを簡単に作製できる手法を開発 | 2020年度 プレスリリース一覧 | プレスリリース | 広報・社会連携 | 大学案内 | 国立大学法人 東京農工大学