マシュマロゲル

マシュマロゲルの外観

マシュマロゲル(MG)は、主に3官能性・2官能性ケイ素アルコキシドを共重合して得られる、シリコーン組成のモノリス型マクロ多孔体の総称です。太さ数マイクロメートルの骨格と数十マイクロメートル径の細孔から成る早瀬元独自の材料であり、マシュマロのような柔軟性に代表される力学特性、表面の撥液性、液体保持性、光散乱性など、さまざまな特徴をもちます。

DIY可能なドライシッパー、ジャイアントベシクル(リポソーム)生成、油水分離、光学式触覚センサー、拡散反射材料など、簡易な研究ツールや機能材料としての応用検討を進めています。

マシュマロゲルとは

マシュマロゲルは、シリコーン骨格をもつ柔軟なマクロ多孔体です。一般的なシリカゲルや多くの無機多孔体は硬く脆い性質を示しますが、マシュマロゲルは圧縮や曲げに対して柔軟に変形し、力を取り除くと形状を回復します。

この柔軟性は、柔軟なシリコーン分子骨格と、マイクロメートルスケールの連続多孔構造に由来します。骨格が柔軟であるだけでなく、空隙を多く含む構造全体が変形を許容するため、軽量でありながら圧縮・曲げに耐える材料になります。

構造と特徴

マシュマロゲルは、太さ数マイクロメートル程度の骨格と、数十マイクロメートル程度の細孔からなるマクロ多孔体です。この構造により、液体を吸収・保持したり、圧縮変形したり、内部で光を多重散乱させたりすることができます。

また、標準組成のマシュマロゲルは疎水性と親油性を示します。そのため、水には濡れにくい一方で油を吸収しやすく、水中から油だけを吸い取る油水分離材料として利用できます。表面を化学修飾することで、さらに撥水性・撥油性を制御することも可能です。

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マシュマロゲルの作製

リットルスケールで作製したマシュマロゲル

マシュマロゲルはゾル-ゲル反応により得られます。再現性が高く、高校・大学での授業テーマとしても扱われています。基本的な作製手順は以下の通りですが、尿素の代わりにアンモニア水を使って室温で作製したり、テトラメトキシシランを共重合させて界面活性剤フリー水溶液系で作製したりすることも可能です。論文発表ごとにマイナーアップデートを行っています。

作製例

試薬

  • 5 mM 酢酸水溶液:1500 mL
  • 尿素:500 g
  • n-ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(CTAC):100 g
  • メチルトリメトキシシラン(MTMS):300 mL
  • ジメチルジメトキシシラン(DMDMS):200 mL

手順

マシュマロゲル作製時の反応
  1. 3官能ケイ素アルコキシドであるMTMS・DMDMS、尿素、界面活性剤CTACを酢酸水溶液に溶解し、30分間攪拌します。この段階でアルコキシドの加水分解を進めます。
  2. 反応液を密閉容器に移し、80 °Cで6時間程度ゲル化・エージングを行います。
  3. 得られたゲルを水・アルコールに浸漬して洗浄します。
  4. 蒸発乾燥を行います。
マシュマロゲルの微細構造(マイクロX線CT)

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マシュマロゲルの物性

力学特性

マシュマロゲルは圧縮や曲げに対して柔軟性をもち、除荷後にはすぐ形状を回復します。この柔軟性は、柔軟な分子構造とマイクロメートルスケールの微細構造に由来します。

耐寒性・断熱性

液体窒素温度におけるマシュマロゲル

MTMS-DMDMS系マシュマロゲルの力学特性は、−130から320 °Cでほとんど変わりません。[2] ガラス転移点以下、液体窒素中でもある程度の柔軟性を示します。

室温付近では約30 mW m−1 K−1の低熱伝導率を示します。魔法瓶水筒にマシュマロゲルを詰めて液体窒素を染み込ませることで、凍結胚の簡易運搬容器(ドライシッパー)として使用することができます。[6]

吸音・防振

マシュマロゲルは、柔軟な骨格と豊富な細孔をもつため、吸音性や防振性を示します。軽量で柔軟な多孔体として、振動や音を抑える用途への応用も期待できます。[1]

疎水性

マシュマロゲルの撥水性

マシュマロゲルはPDMSと同等の疎水性を示します。バルク表面は特別な処理なしで(超)撥水性をもちます。これは、表面の粗さと分子自体の疎水性に由来する性質です。標準組成のマシュマロゲルは疎水性と親油性をもつため、スポンジのように水から油のみを吸い取り、分離することができます。[2]

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マシュマロゲルの応用

油水分離

マシュマロゲルによるヘキサンと水の分離

標準組成のマシュマロゲルは、水をはじき、油を吸収します。この性質を利用すると、水面や水中に存在する油をマシュマロゲルに吸収させ、水と油を分離することができます。柔軟で大きなモノリスとして扱えるため、実験室スケールでの分離材料としてだけでなく、油の回収や分析化学分野での利用も期待できます。[2]

液体窒素保持材・簡易ドライシッパー

マシュマロゲルを液体窒素吸収材として利用したDIYドライシッパーの構成

マシュマロゲルは液体窒素を吸収・保持する材料としても利用できます。魔法瓶水筒にマシュマロゲルを詰めて液体窒素を染み込ませることで、凍結胚の簡易運搬容器として使用することができます。液体窒素を多孔体内部に保持することで、液体窒素がこぼれにくい簡易ドライシッパーとして機能します。[6]

ジャイアントベシクル生成

マシュマロゲルを使ったジャイアントベシクル作製

マシュマロゲルにリン脂質溶液を染み込ませて乾燥した後、バッファーで湿潤させて絞り出すことで、ジャイアントベシクル(リポソーム)分散液を簡単かつ大量に調製することができます。多孔体内部にリン脂質を保持し、湿潤・圧搾するという単純な操作で、人工細胞研究や膜モデル研究に利用できるジャイアントベシクルを得ることができます。[7]

マシュマロゲルをメッシュと複合化することで、取り扱いやすいシート状材料を作製できます。機械的な補強を行うことで、利用範囲が広がります。[9]

カプセル作製・リキッドマーブル

撥液性を付与したマシュマロゲルや、マシュマロゲルの破砕物を利用することで、液滴やカプセルの作製にも応用できます。超撥油性表面をもつ材料は、気中でのカプセル作製用基板として利用できます。また、マシュマロゲル破砕物を殻に用いたリキッドマーブルやカプセル作製にも利用できます。[4-5,10]

撥水・撥油性材料

マシュマロゲルの撥油性
さまざまな液体を弾く超撥水・超撥油性マシュマロゲル

VTMS-VMDMS系マシュマロゲルは表面に無数のビニル基をもつため、表面修飾が可能です。例えば、チオール―エン反応によって機能化することができます。パーフルオロアルキル基などで修飾することで、撥液性を制御する例が考えられます。マシュマロゲルを表面修飾した材料の切断面は、ノルマルヘキサデカンなどに対して超撥油性を示します。これにより、水だけでなく油もはじく超撥水・超撥油性マシュマロゲルを作製できます。[3]

光学応用

マシュマロゲルは、直径数マイクロメートル径の骨格がミー散乱を起こすため、白い外観をもちます。ゲルを圧縮すると骨格同士が密になるため多重散乱が起こりやすくなり、後方散乱強度が低下します。フォトリフレクタで光量変化を検出することで、簡易な光学式触覚センサーを開発しました。[13]

最適な構造をもつマシュマロゲルの拡散反射率は98 %程度になります。この特性を利用して、拡散反射標準や日射反射材料などへの応用も検討しています。[14]

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論文

  1. Hayase, G.; Kanamori, K.; Nakanishi, K. New flexible aerogels and xerogels derived from methyltrimethoxysilane/dimethyldimethoxysilane co-precursors, J. Mater. Chem. 2011, 21, 17077-17079.
    doi:10.1039/C1JM13664J (ポストプリント)
    MGの作製と基本物性
  2. Hayase, G.; Kanamori, K.; Fukuchi, M.; Kaji, H.; Nakanishi, K. Facile Synthesis of Marshmallow-like Macroporous Gels Usable under Harsh Conditions for the Separation of Oil and Water, Angew. Chem., Int. Ed. 2013, 52, 1986-1989.
    doi:10.1002/anie.201207969 (ポストプリント)
    MGの油水分離媒体応用・液体窒素下での柔軟性
  3. Hayase, G.; Kanamori, K.; Hasegawa, G.; Maeno, A.; Kaji, H.; Nakanishi, K. A Superamphiphobic Macroporous Silicone Monolith with Marshmallow-like Flexibility, Angew. Chem., Int. Ed. 2013, 52, 10788–10791.
    doi:10.1002/anie.201304169 (ポストプリント)
    MG表面修飾による超撥油化
  4. Takei, T.; Terazono, K.; Araki, K.; Ozuno, Y.; Hayase, G. Kanamori, K.; Nakanishi, K.; Yoshida, M. Encapsulation of hydrophobic ingredients in hard resin capsules with ultrahigh efficiency using a superoleophobic material, Polym. Bull. 2016, 73, 409-417.
    doi:10.1007/s00289-015-1497-y
    MGを撥液基板に用いた気中でのカプセル作製
  5. Takei, T.; Araki, K.; Terazono, K.; Ozuno, Y.; Hayase, G.; Kanamori, K.; Nakanishi, K.; Yoshida, M. Highly Efficient Encapsulation of Ingredients in Poly(methyl methacrylate) Capsules Using a Superoleophobic Material, Polym. Polym. Compos. 2017, 25, 129-134.
    doi:10.1177/096739111702500202
    MGを撥液基板に用いた気中でのカプセル作製
  6. Hayase, G.; Ohya, Y. Marshmallow-like silicone gels as flexible thermal insulators and liquid nitrogen retention materials and their application in containers for cryopreserved embryos, Appl. Mater. Today 2017, 9, 560-565.
    doi:10.1016/j.apmt.2017.10.004 (ポストプリント)
    MGを液体窒素吸収材に用いたマウス凍結胚用簡易ドライシッパー
  7. Hayase, G.; Nomura, S. M. Large-Scale Preparation of Giant Vesicles by Squeezing a Lipid-Coated Marshmallow-Like Silicone Gel in a Buffer, Langmuir 2018, 34, 11021-11026. doi:10.1021/acs.langmuir.8b01801 (ポストプリントACS Articles on Request)
    MGから絞り出す新規ジャイアントベシクル(リポソーム)作製法
  8. Takei, T.; Yamasaki, Y.; Yuji, Y.; Sakoguchi, S.; Ozuno, Y.; Hayase, G.; Yoshida, M. Millimeter-sized capsules prepared using liquid marbles: encapsulation of ingredients with high efficiency and preparation of spherical core-shell capsules with highly uniform shell thickness using centrifugal force, J. Colloid Interf. Sci. 2019, 536, 414-423.
    doi:10.1016/j.jcis.2018.10.058
    MG破砕物を殻に用いたリキッドマーブル・カプセル作製
  9. Hayase, G.; Nomura, S. M. Macroporous Silicone Sheets Integrated with Meshes for Various Applications, ACS Appl. Polym. Mater. 2019, 1, 2077-2082.
    doi:10.1021/acsapm.9b00382 (ポストプリントACS Articles on Request)
    メッシュ補強したMGシートのさまざまな応用
  10. Sreejith, K. R.; Gorgannezhad, L.; Jin, J.; Ooi, C. H.; Takei, T.; Hayase, G.; Stratton, H.; Lamb, K.; Shiddiky, M.; Dao, D. V.; Nguyen, N. Core-Shell Beads Made by Composite Liquid Marble Technology as A Versatile Microreactor for Polymerase Chain Reaction, Micromachines 2020, 11, 242.
    doi:10.3390/mi11030242 (オープンアクセス)
    MGリキッドマーブル・カプセル内でのPCR
  11. Hayase, G. Surfactant-free Aqueous Fabrication of Macroporous Silicone Monoliths for Flexible Thermal Insulation, Bull. Chem. Soc. Jpn. 2021, 94, 2210-2215.
    doi:10.1246/bcsj.20210189 (ポストプリント)
    界面活性剤フリー単純水溶液系での作製
  12. Nomura, S. M.; Shimizu, R.; Archer, R. J.; Hayase, G.; Toyota, T.; Mayne, R.; Adamatzky, A. Spontaneous and driven growth of multicellular lipid compartments to millimeter size from porous polymer structures. ChemSystemsChem 2022, 4, e202200006. doi:10.1002/syst.202200006 (Open access)
    MGから湧き出す人工細胞
  13. Hayase, G. Optical Tactile Sensor Using Scattering inside Sol-Gel-Derived Flexible Macroporous Monoliths. Sens. Actuator A Phys. 2023, 354, 114253. doi:10.1016/j.sna.2023.114253 (ChemRxiv)
    MG内部の光散乱を利用した触覚センサー
  14. Hayase, G. Marshmallow-like Macroporous Silicone Monoliths as Reflective Standards and High Solar-Reflective Materials. ACS Appl. Polym. Mater. 2023, 5, 5280–5285. doi:10.1021/acsapm.3c00695 (ポストプリントACS Articles on Request)
    MGを利用した拡散反射材料

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プレスリリース

京都大学

東北大学

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報道等

新聞

  • 2013年1月11日 京都新聞 夕刊8面
  • 2013年1月12日 毎日新聞 日刊1面目次・28面
  • 2013年1月12日 朝日新聞 夕刊6面
  • 2013年1月13日 日本経済新聞 30面
  • 2013年1月18日 日刊工業新聞 23面
  • 2013年2月1日 科学新聞 2面
  • 2013年2月14日 産経新聞 23面
  • 2013年4月8日 読売新聞 19面
  • 2013年9月6日 京都新聞 夕刊8面
  • 2013年9月10日 日本経済新聞 18面
  • 2013年10月4日 科学新聞 4面
  • 2026年2月5日 日刊工業新聞 25面

テレビ

  • 2013年1月18日 ちちんぷいぷい(毎日放送) 出演
  • 2013年6月15日 ガリレオからの挑戦状(フジテレビ)
  • 2013年6月16日 未来の起源(TBS) 出演

ラジオ

雑誌

  • 月刊化学 2013年3月号 化学掲示板 新聞に載った注目記事(1月)
  • 月刊化学 2013年5月号 世界の化学トピック──英国王立化学会“Chemistry World”から
  • Newton 2013年12月号 SCIENCE SENSOR 「よごれを防ぐ新素材」
  • 現代化学 2013年12月号 FLASH 超撥水性と超撥油性を併せもつ”マシュマロゲル”
  • 注目のスーパーマテリアル ―社会を一変させる新材料100 (Newton別冊)
  • 現代化学 2014年4月号 マシュマロゲルの開発
  • パリティ 2014年9月号 超はっ水・超はつ油性マシュマロゲル
  • 月刊化学 2019年9月号 シリコーン多孔体・マシュマロゲルを用いたDIY実験ツールの開発

インターネット

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