エアロゲル

かさ密度 4.5 g cm−3BNFエアロゲル

エアロゲルは、微細な固体骨格と気体を主な分散相とする多孔質材料です。非常に軽く、内部に多量の空隙を含むため、低いかさ密度、低い熱伝導率、大きな比表面積などを示します。特にシリカエアロゲルは、半透明の外観と優れた断熱性を併せもつ代表的なエアロゲルとして知られています。

エアロゲルとは

エアロゲル(aerogel)はIUPAC GOLD BOOKにおいて”Gel comprised of a microporous solid in which the dispersed phase is a gas.” すなわち「分散相が気体である微多孔質固体からなるゲル」と定義されています。単に空隙を多く含む固体ではなく、ゲルに由来する三次元ネットワーク構造をもち、その内部の分散相が液体から気体へ置き換えられた材料として理解する必要があります。一般的には超臨界乾燥法を用いて得られた低密度構造体(乾燥ゲル)を挿します。エアロゲルに対し、蒸発乾燥過程によるものをキセロゲル凍結乾燥のものをクライオゲルと呼びます。

エアロゲルは構造体の名称であり、特定の化合物を指す用語ではありません。シリカ(SiO2)、有機ポリマーやその焼結体であるカーボン(C)、アルミナ(Al2O3)やチタニア(TiO2)をはじめとした金属酸化物などさまざまな物質で作製され、断熱材、電極、触媒担体などへの応用研究が古くから行われています。いずれの場合も、ゲル由来のネットワーク構造を保持しているかどうかが本質的な判断基準になります。

エアロゲルは90年以上も前から知られている構造材料であり、超臨界乾燥装置さえあれば作製は難しくありません。湿潤ゲルを装置に入れれば勝手にできあがります。身の回りで目にすることはほとんどありませんが、シリカエアロゲルは海外サイトから簡単に入手可能です。

定義の曖昧化

近年、クライオゲル、低密度フォームなどが、明確な根拠なく「エアロゲル」と呼ばれる例が見られます。しかし、すべての低密度多孔体をエアロゲルと呼ぶのは不適切です。

蒸発乾燥によって得られる乾燥ゲルは、一般にキセロゲルと呼ばれます。蒸発乾燥では、細孔内に気液界面が生じ、表面張力に由来する毛管力がゲル骨格に加わります。その結果、ゲル骨格が収縮・緻密化しやすくなります。したがって、同じ前駆体から作製したとしても、蒸発乾燥体を従来のエアロゲルと同一視することはできません。

クライオゲルについても同様です。クライオゲルは、凍結条件下でのゲル化や凍結乾燥によって得られる多孔体として扱われることが多い材料です。凍結乾燥では気液界面を避けることはできますが、氷晶や凍結溶媒の成長によって、マイクロメートルスケールの大きな孔や異方的な構造が生じやすくなります。そのため、超臨界乾燥で得られた材料と従来のエアロゲルはまったく異なる構造をもちます。

発泡体との混同も問題です。発泡体は、気泡が液体、固体、またはゲル中に分散した材料です。発泡剤、気泡混入、相分離、テンプレート除去などによって形成される軽量材料は、ナノメートルスケールのゲル骨格と細孔からなるエアロゲルとは、構造形成の原理が異なります。低密度であるという理由だけで発泡体をエアロゲルと呼ばれるケースが増えており、注意が必要です。

目次へ戻る

エアロゲルの歴史

エアロゲルは、1931年にS. S. Kistlerによって報告されました。Kistlerは、ゲル中の液体を気体に置き換えることで、収縮の少ない低密度な乾燥体を得られることを示しました。初期の報告では、シリカ、アルミナ、酸化スズ、ゼラチン、アガー、セルロースなど、多様な組成のエアロゲルが扱われています。

その後、シリカエアロゲルは低かさ密度材料、断熱材料、低屈折率材料として研究されてきました。1960年代以降には、テトラメチルオルソシリケート(TMOS)やテトラエチルオルソシリケート(TEOS)などのケイ素アルコキシドを前駆体とする作製法が発展しました。これらの方法では、加水分解と重縮合を制御することで、比較的均一なシリカネットワークを形成できます。

1970年代から1980年代には、チェレンコフ光検出器や透明断熱窓など、低屈折率・透明性・断熱性を利用する応用が検討されました。1990年代以降は、疎水化シリカエアロゲル、レソルシノール—ホルムアルデヒド系エアロゲル、有機ポリマーエアロゲル、カーボンエアロゲルなどの研究が広がりました。2000年代以降は、シリカ単体ではなく、有機—無機ハイブリッド、繊維複合体、グラフェン、カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバーなどを用いた複合エアロゲルの研究も盛んに行われています。

目次へ戻る

シリカエアロゲルの特徴

シリカエアロゲルは、エアロゲルの代表例としてよく知られています。適切に作製されたシリカエアロゲルは、低いかさ密度、高い気孔率、低い熱伝導率、可視光透過性を示します。低かさ密度であるにもかかわらず、固体として自立できる点が特徴です。

シリカエアロゲルの骨格は、ナノメートルスケールのシリカ粒子やシリカネットワークから構成されています。その骨格の間に多数の細孔が形成され、全体として非常に大きな気孔率をもちます。この微細構造により、エアロゲル構造中にある気体分子の熱運動量交換が抑えられ、固体骨格を通る熱伝導も小さくなります。

骨格や細孔が可視光の波長より十分小さい場合、光散乱が抑えられるため、半透明から透明に近い外観を示します。ただし、厚みが増すと散乱によって透過率は低下します。そのため、シリカエアロゲルは透明断熱材として期待される一方で、通常のガラスやアクリルのような透明材料と同じように扱えるわけではありません。

シリカエアロゲルの大きな課題は、脆く壊れやすいことです。低密度のシリカ骨格は、圧縮、曲げ、衝撃、摩擦に弱く、粉化や割れが生じやすい材料です。そのため、実用化には機械的強度の改善、複合化、表面処理、成形技術の開発が必要になります。

断熱性のしくみ

エアロゲルの断熱性は、気相、固相、輻射の熱伝導を同時に考える必要があります。多くのエアロゲルでは、見かけ体積の大部分を空気が占めています。しかし、その空気は細孔内に閉じ込められており、通常の自由空間中の空気とは熱の伝わり方が異なります。

空気中分子の平均自由行程(約70 nm)と同程度以下の空間では、分子同士の衝突による熱運動量の交換が抑制されます。この効果により、細孔内の気相熱伝導はバルク空気中より小さくなります。これが、エアロゲルが空気よりも低い熱伝導率を示しうる主な理由の一つです。

一方で、熱は固体骨格を通しても伝わります。エアロゲルでは骨格が細く、連続性も限られているため、固相を通る熱伝導も抑えられます。かさ密度を下げると、固相熱伝導は小さくなります。

しかし、骨格量が少なくなりすぎると細孔径が大きくなり、気相熱伝導や輻射の寄与が増加しやすくなります。反対に、かさ密度を上げると細孔は小さくなりますが、固相熱伝導が増加します。そのため、シリカエアロゲルでは、断熱性に対して最適なかさ密度範囲が存在します。なお、ほとんどの場合においてエアロゲルの断熱性は室温付近で最適化されたものです。高温下では輻射伝熱が増加し、低温下では気相の熱伝導率が低下するとともに気体分子の平均自由行程が短くなる(より小さな細孔が必要となる)ため、シリカエアロゲルを用いるメリットは失われます。

エアロゲルのかさ密度と熱伝導率の関係。室温下におけるシリカエアロゲルの場合、0.15 g cm−3付近で最適値をとる。

シリカエアロゲルで優れた断熱性を実現するためには、かさ密度を最適値(~0.15 g cm−3)にする必要があります。ときおり、超低かさ密度かつ断熱性をうたうエアロゲル材料が発表されますが、ほとんど場合において測定法に問題があり正しい数値を出せていないケースです。JIS A 1412-1やJISA1412-2などの工業規格に従って測定されているかを確認する必要があります。

シリカエアロゲルの構造模式図。骨格径は10 nm程度。

可視光透過性

シリカエアロゲルは、条件によって高い可視光透過性を示します。これは、シリカ骨格や細孔が可視光の波長(380–780 nm)より十分小さい場合、光散乱が抑えられるためです。そのため、シリカエアロゲルは透明断熱材や低屈折率材料として検討されてきました。

シリカエアロゲルの透明性は、骨格サイズ、細孔径、かさ密度、厚み、表面状態に強く依存します。細孔や骨格が粗大化すると、光散乱が大きくなり、白濁します。また、厚みが増すほど透過率は指数関数的に低下します。したがって、「透明なエアロゲル」といっても、窓材のような用途にそのまま使用できるとは限りません。

適切な組成で作製されたシリカエアロゲルは、10 mm厚でおよそ90 %の可視光を透過します。これはシリカ骨格のスケールが可視光の波長(380–780 nm)より十分に小さく、ミー散乱を起こしにくいためです。微細構造がよく制御されたエアロゲルは、レイリー散乱のため青く透き通った外観をもちます。可視光透過率は材料の厚みが増すごとに指数関数的に減少するため、シリカエアロゲルを透明断熱材として用いるためにはより精密な微細構造の形成による可視光散乱の抑制が求められます。原理上、窓ガラスに用いられるような透明ガラス・アクリル並の透過率にはなり得ません。

目次へ戻る

商用化・実用化の課題

シリカエアロゲルは、優れた断熱性を示す材料として知られています。しかし、一般的な断熱材を広く置き換えるほど普及しているわけではありません。その理由は、断熱性能だけでなく、強度、加工性、コスト、施工性、長期安定性を含めた総合性能が求められるためです。

シリカエアロゲルは脆く、粉化しやすい材料です。粉落ちは作業性や安全性の面で問題になります。また、超臨界乾燥などの特殊な製造工程を必要とするため、汎用発泡断熱材と比べて製造コストが高くなりやすいです。大面積化や複雑形状への成形も容易ではありません。

エアロゲルブランケットのような複合材料では、ハンドリング性は改善されますが、純粋なエアロゲルのような透明性や極低熱伝導率は得にくくなります。また、既存断熱材と比較した場合、価格差を正当化できる用途は限られます。薄いスペースで高い断熱性能が必要な用途、高温配管、特殊装置、宇宙・航空用途などでは有効ですが、一般住宅や汎用包装材などではコストが大きな障壁になります。

エアロゲルは「夢の材料」として扱うよりも、長所と短所が明確な低密度多孔体として位置づけることが重要です。特殊用途では代替困難な性能を発揮しうる一方で、汎用材料として広く使うには、性能、価格、信頼性、加工性を同時に大きく改善する必要があります。

目次へ戻る

参考文献

  1. Kistler, S. S. Coherent Expanded Aerogels and Jellies. Nature 1931, 127, 741. doi:10.1038/127741a0
  2. SANTOCEL… Can This Remarkable Silica Aerogel Improve YOUR Processing or Products? Chem. Eng. News Archive 1954, 32, 4179. doi:10.1021/cen-v032n042.p4179
  3. Pekala, R. W. Organic Aerogels from the Polycondensation of Resorcinol with Formaldehyde. J. Mater. Sci. 1989, 24, 3221–3227. doi:10.1007/BF01139044
  4. Hüsing, N.; Schubert, U. Aerogels — Airy Materials: Chemistry, Structure, and Properties. Angew. Chem. Int. Ed. 1998, 37, 22–45. doi:10.1002/(SICI)1521-3773(19980202)37:1/2<22::AID-ANIE22>3.0.CO;2-I
  5. Hrubesh, L. W. Aerogel applications J. Non-Cryst. Solids 1998, 225, 335–342. doi:10.1016/S0022-3093(98)00135-5

目次へ戻る