エアロゲルの改良・発展

エアロゲルは物性値だけ見れば優れた材料(構造体)ですが、機械的強度が低すぎるため特殊用途以外ではほとんど実用化されていません。

エアロゲルの改良には、化学合成のみならず表面処理・洗浄・乾燥などを含むさまざまな過程での技術が欠かせません。1990年代・2000年代までにNASAを中心として積極投資・研究が行われた結果、シリカエアロゲルは進歩しましたが、それ以降は大きな進展が見られていません。(その間、他にもさまざまな断熱法が発展してきています。)

現在もエアロゲルを改良する研究は行われています。以下では主に断熱材としての改良例を紹介します。

物理的な複合化

繊維やブランケットと物理的に複合化したシリカエアロゲルがAspen Aerogelsなどから市販されています。これら製品は曲げが可能であり、シリカエアロゲル単体に比べればハンドリング性が改善されたといえます。しかし、熱伝導率の上昇や粉落ち、公称値が出ないなどデメリットもあります。可視光は透過しなくなるため、配管の断熱など光学特性を必要としない目的で用いられています。長期使用においては優れた面がありますが、グラスウールやポリマーフォームなどの断熱材に比べると導入コストがかなり高いため、さほど普及していないようです。近年ではポリプロピレン発泡体内部にシリカエアロゲルを形成するなど新しい複合材料も発表されています。[1]

有機―無機ハイブリッド化

シリカ—有機ポリマー複合体

シリカエアロゲルに関して、各種物性を損なわず、機械強度を上げるさまざまな試みがなされてきました。代表的な方法としては有機—無機ハイブリッド化が挙げられます。例えば、シリカ骨格表面をシランカップリング剤 3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APTES)で処理し、生成したアミド基を足場にエポキシなどの有機ポリマーで補強する方法では、大きな曲げも可能なエアロゲル(X-aerogel)が得られます。[2] しかしこの処理によりシリカ骨格は粗大化するため、可視光透過性や断熱性が犠牲になってしまいます。

シルセスキオキサン系エアロゲル

代表的なCH3SiO1.5組成をもつポリメチルシルセスキオキサン(PMSQ)エアロゲルは、最適条件下ではシリカエアロゲルと同等の透明度と断熱性をもちながら、全高に対し50—80 %の一軸圧縮を行っても完全に元に戻る性質を備えています(ねじれ・摩擦・衝撃には脆弱)。[3] 1-2 mm厚程度の薄いサンプルでは曲げも可能ですが実用的ではありません。一部の組成・密度範囲内では蒸発乾燥によってパネルを得ることも可能ですが、[4] 歩留まり、サイズ、作製時間などに問題があります。

装置・法令さえクリアすれば超臨界乾燥を用いる方法が圧倒的に簡単です。高圧技術は日々進歩し続けており、蒸発乾燥が工業的に優れているとは断言できません。海外の研究設備では大口径のチャンバーが用いられており、例えば1 m2のパネルも作製可能のようです。

シリコーンやシルセスキオキサンのモノマー原料であるケイ素アルコキシドは金属ケイ素を経由して作られるため、エネルギーコストや半導体産業とのバッティングにより価格上昇が続いています。

有機ポリマーエアロゲル

ポリウレタン系やポリイミド系[4] など、各種有機ポリマーエアロゲルが開発され、一部市販もされています。メラミンなど一部の系を除いて可視光透過性は犠牲になりますが、シリカエアロゲルよりも扱いやすいのが特徴です。汎用的な市販断熱材よりは優れた断熱性をもつもののさほど優れた値ではないため、主に断熱以外での応用が提案されています。

超低かさ密度エアロゲル

さまざまな組成で、かさ密度が5 mg cm−3を下回る超低密度構造体に関する報告が出てきています。自重により崩壊しない均質な微細構造の形成には工夫が必要です。さまざまな応用が提案されてはいますが、実用性はまだはっきりしていません(断熱材として用いることはできません)。早瀬はベーマイトナノファイバーを用いることで超低かさ密度エアロゲル(BNFゲル)を作製、提供しています。[6]

参考

  1. -ポリプロピレン発泡体とシリカエアロゲルの複合化により実現-
  2. Meador, M. A. B.; Fabrizio, E. F.; Ilhan, F.; Dass, A.; Zhang, G.; Vassilaras, P.; Johnston, J. C.; Leventis, N. Cross-linking amine-modified silica aerogels with epoxies: Mechanically strong lightweight porous materials, Chem. Mater. 2005, 17, 1085–1098.
    doi:10.1021/cm048063u
  3. Kanamori, K.; Aizawa, M.; Nakanishi, K.; Hanada, T. New Transparent Methylsilsesquioxane Aerogels and Xerogels with Improved Mechanical Properties, Adv. Mater. 2007, 19, 1589–1593.
    doi:10.1002/adma.200602457
  4. Meador, M. A. B; Fabrizio, E. F.; Ilhan, F.; Dass, A.; Zhang, G.; Vassilaras, P.; Johnston, J. C.; Leventis, N. Mechanically Strong, Flexible Polyimide Aerogels Cross-Linked with Aromatic Triamine, ACS Appl. Mater. Interfaces 2012, 4, 536–544.
    doi:10.1021/am2014635
  5. Hayase, G.; Kanamori, K.; Maeno, A.; Kaji, H.; Nakanishi, K. Dynamic spring-back behavior in evaporative drying of polymethylsilsesquioxane monolithic gels for low-density transparent thermal superinsulators, J. Non-Cryst. Solids 2016, 454, 115-119.
    doi:10.1016/j.jnoncrysol.2015.12.016 (ポストプリント)
  6. Hayase, G.; Nonomura, K.; Hasegawa, G.; Kanamori, K.; Nakanishi, K. Ultralow-Density, Transparent, Superamphiphobic Boehmite Nanofiber Aerogels and Their Alumina Derivatives, Chem. Mater. 2015, 27, 3–5.
    doi:10.1021/cm503993n (Open Access)